おみくじは当たらない
帰りの車のなかは少し気まずい空気。
見えない壁があるような。
前回、初対面であんなに盛り上がったのに。
そう言えば今日はまだ一度も大声で笑ってないかも。

市内に戻ってきた。
ここ数日雪の日が続いた。
歩道は踏み固められた雪でツルツル。
どこへ向かってるんだろう。


「ここらへんでいいですよ」


駅も近いので、車の通りも少なく、路面は歩きやすそうだったのであたしは彼に声をかけた。


「駐車場行こうと思った」

「いいですよ。もったいないので」


あたしはシートベルトに手をかけた。
しかし、車は止まらない。


「駅の近くまで行くよ。常識無いって思われたくないから」


思わず出た言葉だろうけど。
びっくりした。

車は駅に向かっている。
あたしは大人しく黙っていることにした。


「あ、そこ乗り場みたいだから」


信号で止まったタイミングで彼が言った。
乗り場まではすぐ。
あたしはワタワタとバッグ、コート、マフラーを持つ。
信号は青に変わる。


「うしろから車来てないですか?」


あたしはサイドミラーで確認した。


「いまは来てないから」


そうは言ってるけど、車来てるし。
あたしは慌ただしくドアを開ける。


「気をつけてくださいね。ありがとうございます。」


車道は、固まった雪でデコボコ。
慎重に歩かないと滑りそう。
歩道に素早く移動し、車を見送る。
凍結した路面にタイヤがキュッと空回り。
ほら。最初にあたしが声を掛けたところで降ろしてくれたらよかったのに。
駅まで遠くても、車道は雪が無かった。




それに。
これは常識じゃなくて、【気遣い】や【やさしさ】のカテゴリーだ。
なんか、すごくモヤモヤする。
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