純粋な思いは危険な香りに誘われて
2．空気のように
「あたしを見てくれることはないの？」

「……ごめんね。幸せになって」


「俺は幸せにできない？」

「私はあの人と一緒になるの。大丈夫、あなたほどの男なら絶対幸せになれる女の子が現れるから」




あなた以外との幸せなんて幸せなわけないでしょう。




姉が結婚した。相手はあたしの好きな人。年上だけどあたしは大好きで昔からこの人しか見てこなかった。


でも姉も同じだった。あたしが好きだと思う前から彼を好きになり、一緒にいた。二人が結婚するのは当然のことだった。


「ちょっと抜け出さない？」


披露宴の二次会で一緒に席を外したのは好きな人の弟だった。彼はあたしの姉が好きだった。


年少者はこうも損をする。


外に出ると冷たい夜風が剥き出しの首を襲って首をすぼめる。


「綺麗だね」


姉のことを言ったのだと思った。確かに披露宴の姉は妹のあたしから見ても綺麗だった。ドレスに身を包み綺麗になった姉はそこにいた誰よりも綺麗だった。だから彼を見なかった。でも彼はそれきり黙ったままだ。


「褒めてるんだけど」


声がしてちらりと振り向くと彼はあたしを見ていた。あたしのこと？　と確認すると「だからそう言ってんじゃん」と苦笑した。


誰かに褒められるために着飾ったわけではないけど、ちょっとだけ嬉しかった。でも本当はあなたの兄に褒められたかった。彼だってあたしじゃなくて姉と一緒にいたかったはずだ。


「…………ありがと」

「うん」


寒くて身を縮こまってしゃがむ。彼も隣にしゃがむ。これであたし達の姿は誰にも見えない。


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