純粋な思いは危険な香りに誘われて
3.気づいて
店内にはクリスマスソングが流れている。あたしの目の前には追い討ちをかけるようにクリスマスツリーがでかでかとそびえ立っていた。


まだ1ヶ月前なのにばかじゃないの。


あたしはクリスマス一色の光景から逃げるために最上階までエスカレーターで上った。


最上階はゲームセンターになっている。たくさんのゲーム台のおかげでこの階だけうるさい。いつもは避けて通るけど今日はそれがありがたかった。


クリスマスなんて関係ない喧騒の中でイヤホンを取り出す。音楽に集中すればクリスマスツリーなんて目に入らないだろう。右耳にイヤホンをつける。


もう一つのイヤホンを左耳につけようとしたその時ふとある一点が目に入った。


見慣れた横顔。脳に刻み付けるように何度も見てきた額から顎のライン。


彼だった。


ドクンと心臓が暴れ出す。彼の姿と自分の心臓の音でイヤホンから流れる音楽なんて聞こえなくなった。


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