絶望の空の色
頬を伝う涙をようやく拭う。
それでも瞳は滲んでいて、見上げたタワーのネオンがいつもより眩しくて、ぐっと目を細めたらまた端から涙が溢れた。
そのまま空を見上げたら、ビルの隙間に広がる狭い空は暗闇ばかりだった。
雲なんてかかってないのに、そこにあるはずの星たちは地上のネオンに姿を消され、目視できない。
――どうしようか、これから。
考えて、笑った。
どうしようか、じゃない。
いつも通りに過ごすしかないのだ。
泣いても笑っても時間は過ぎるから。
仕事もお客様も、時計の針も私がここに立ち止まることを許してはくれない。
今さら尽くす女になることもできないし、できたところでもう恭平くんは帰ってこないだろう。
だけどまだ、あなたから貰ったこの気持ちも、耳に光るピアスも私は捨てられそうにない。
一歩を踏み出しても、まだ、それだけは私のものでいさせてくれるよね?
耳についたピアスに触れて、私は“これが最後”と恭平くんを思った。
知ってた?恭平くん。
私、このピアス、仕事中もずっとしてたの。
2週間後はクリスマスで、私たちの付き合い出して5年目の記念日だったんだよ。
『ハワイ、良いな。行きたいな』って、テレビを見ながら言っていた。
遠出することもなかった私たちには一番の旅行になるねって言って、新婚旅行になるかな、なんて笑いあっていたよね。
あのね、恭平くん。
この何ヵ月か休みも返上して働いたお陰で、年明けの月末に1週間お休みをもらえることになったの。
今日「ハワイとはいかなくても、一緒に旅行にいこうよ」って、言うつもりだったんだけどな。
あのね、恭平くん。
あのね。
どうしてもっと早く、大切だよって伝えられなかったんだろう。