絶望の空の色

さぁ、行かなくちゃ。

いつまでもここに居たところで体が冷えるだけ。
心が冷えている今、体まで冷やしたら完全に凍ってしまいそうだ。
だから歩け、私。
ほら、動いてよ、私の足。

地面に根っこが伸びてしまったように動かずにいた足を、気持ちを奮い立たせてようやく動かす。
階段を降りて地下街に入ると暖房が入っていて暖かい。
外気はあんなに冷たかったのに……。
いつかこんな風に私の心も暖かくなるのだろうか。
今はさっぱりわからない。
失恋したときの立ち直り方なんて、遠い過去のようで忘れた。
片想いで終わった恋も、初めて付き合った人とも“別れ”はあったはずなのに、確かに立ち直ってきたはずなのに。
どんな風にして立ち直ったんだっけ。

このまま帰っても、きっとご飯を作る気力も持てないだろう。
かといってデパ地下でお総菜を選ぶ気分でもない。
家にあったカップ麺でもすすろうか、いや、そんなことしたら余計に心が寂しくなるかも。
何が正しい判断かもわからなくて、それでも帰巣本能が働くのか、いつの間にか改札を通って電車に揺られていた。
車両に人が多いなと感じるのはこの時間に慣れていないからか。
今が何時なのかを見るために、ポケットからスマホを取り出すとメッセージを受信していた。

恭平くんからのメッセージだったら良かったのに、それは虚しくも明日のスケジュール変更のお知らせで、投げ出したくなる衝動を押さえて一言、了解しました!と送る。
顔も声も聞かせずに言葉を伝えることができるのは便利だ。
顔色も声色も読まれることがないから。
滞りなく、違和感もなく、受け止めてくれるから。

私たちには明確な『別れよう』の言葉はなかったけれど、お互いにこれが最後だと、分かっていた。


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