【溺愛症候群】



 香田さんは窓の外を見ていて、こちらに見向きもしない。

 黒いカーディガンの上に散らばった漆黒の髪は、艶やかに流れ落ちている。

 小さな口はキュッと横一文字に締められていて、何故怒っているだろうかと思った。


「班長は全員揃ったら報告してくれ」


 一番前の席に座った教授の張り上げる声に、まわりのざわめきが少しだけ弱くなる。

 班長が続々と報告をし、バスの扉は閉じられた。


 バスガイドのいない観光バスを借り切って、俺たちは研修旅行とやらに出発した。




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