【溺愛症候群】
2-9 擦れる、蒼白。
バスが動きだしてから、20分もした頃だろうか。
「じゃあまずマイク回すから、簡単に自己紹介していけ」
一番前の列を陣取る教授の指示の下、カラオケのような長いコードの付いたマイクが回される。
ぐだぐだで収拾のつかない自己紹介はそれでもなんとか進み、俺は後ろから回ってきたマイクに適当に名前を告げて、香田さんに差し出した。
「はい」
「……りがとう」
あ、がかすれて聞こえなかった。
タオルハンカチを右手に握ったまま、小さな声で淡々と名前を述べる。
最初と同じ、姓だけを。