【溺愛症候群】
前に回そうとする彼女に手を差し出すと、
「ありがとう……」
と、消えそうな声で礼を言われた。
彼女はそのまま窓へ顔を向け、瞳を閉じた。
マイクを前に回し、わざとらしくない程度に顔を覗き込んでみる。
白い、筋が浮き上がる細い首。
漆黒の奥の肌は血色が悪く、赤みは消え失せただ白くなっている。
「香田さん」
思い当たることがあり、おもわず名前を呼んだ。
下を向いていた顔が上がり、目が合った。
その瞳に強そうな光は見えず、少し潤んでいる。