【溺愛症候群】



 周りなんて、知ったことか。

 好き勝手言いたきゃ言えばいい。

 今は、目の前の彼女を洗面台に連れていくのが最重要責務だ。


 座席から立ち上がり、耳元で聞こえるように言う。


「香田さん、嫌かもしれないけど、ごめん。辛抱して?」


 彼女の了承を聞く前に、腕を膝裏と背中に差し入れ持ち上げる。


 予想以上の軽さに、腕に込めた力が余って持ち上げすぎそうになった。


 バスの中に、波紋が広がる。




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