【溺愛症候群】



 腕の中で口を押さえ縮こまる彼女を強く抱き直し、通路に出る。

 通路に突き出した鈴なりの頭が、邪魔だ。


「どいて!」


 声を張り上げると、モーセのように人の頭が引っ込む。


 バスが丁度止まり、扉が開く音がする。

 狭い通路を彼女を抱き上げたまま擦り抜けるように通り、バスステップを降りる。


 一般客や違うバスの人たちの視線が痛いくらいに刺さるが、そんなの気にしていられない。


 ほとんど走っていた。


 俺の進む先にいた人々は皆道をあけてくれ、何者に阻まれることなく進んだ。


 感謝している余裕があったら、その余裕を今こちらに使わなくては。




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