【溺愛症候群】
彼女は未だ少し咳き込んでいて、浅い息を何度も繰り返している。
背中をさすり、髪を避けてやり、声をかける。
それしか出来なくて、あまりの無力さに泣きたくなった。
「ハユくんっ、はい」
弾んだ息のままチィが渡してくれた紙コップにペットボトルの水をよそい、口を濯ぐように促す。
「ハユくん、後は私がやろうか?」
チィの提案に、今がどこなのか思い出す。
事情を知らない人間が見たら、痴漢扱いされても文句は言えない。
「あ……うん。頼むよ」
ぼんやり、急に気が抜けて、地面の硬さもよくわからないまま女子トイレを後にする。
トイレを出て、新鮮な空気に深々と陰欝な溜息を混ぜた。
自分で自分が嫌いになりそうだ。