小倉ひとつ。
「よろしくありません」


びしりと鋭い却下。ほとんど反射じみた拒否に、恨めしく見上げる。


「瀧川さん」

「駄目です」


よーし分かった。貸してくれないってことがよく分かった。ならば強硬手段だ。


「失礼します」


絶対逃げられるので、直前まで意図が分かりにくいようになるべく自然に手を伸ばして、両手でぱっと勢いよく瀧川さんの左手をさらった。


……ああほら、もう。なんて。


「やっぱり冷たいじゃないですか」


きっと冷たいだろうってあらかじめ予想しておいたのに、霜焼けになりそうな鋭い冷たさに、一瞬固まる。


触れた瞬間、瀧川さんの手が大きく跳ねたけれど、ただ重ねただけの、いつでも振り払える私の両手から、逃げようとはしないでくれた。


氷で冷やしたというよりは、氷そのものみたいな芯から冷え込んだ冷たさだ。


これ指先に感覚あるのかな。こんなに冷たいと痛くない? それは爪も紫になるよ。


重ねた手から、私の体温も目下がんがんものすごい勢いで奪われているけれど、気にしない気にしない。
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