小倉ひとつ。
たい焼きをのんびり食べながら、誕生日のお祝いに話が飛んだ。


新入社員の頃は先輩にご飯を奢ってもらったとか、大学生の頃は友達と飲み明かしたとか、そういう話。


「今はもう全然誰からももらえなくて寂しいんです」


私が差し上げましょうか、とは冗談に紛らわしても言えなくて、一度言葉を飲み込む。


ただの冗談で、世間話だ。


私もおどけておくべきなのは分かっている。言葉を間違えてはいけない。


「私もです。仕方ないので自分で悲しくお祝いしてます」


慎重に言葉を選んでことさら明るく声を上げると、小さな呟きが落とされた。


「……つれない方だ」

「え?」


聞き間違いかな。


空耳……?


うそ。だって。


勘違いだって思いたくて顔を上げると、瀧川さんとはっきり目が合った。


冗談ではないと思いたくなるような、静かな目をしていた。


「立花さんは、くださらないんですか?」


美しい微笑みが向けられる。


あまりに軽やかな口調は、きっと冗談だからだ。


でも、……でも、賭けてみたくなる。欲が出る。


心臓がうるさい。


うまく声が出なくて、一拍置いておそるおそる口を開く。


「……差し上げても、よろしいんですか」


かすれた確認は、分かりやすく震えた。


「いただけたら、嬉しいですよ」
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