小倉ひとつ。
もう話題は尽きて、あとはただ。相槌を打ちながら、好きだけが頭を占めていた。


短く着信音が鳴る。


「すみません、出てもよろしいですか?」


瀧川さんが相手を確認して、少し困ったような顔でこちらを見た。


お仕事の話かな。


お休みにも電話がかかってくるなんて、よほど緊急なのか大変なのか、瀧川さんが主体なのか。


「どうぞどうぞ。お抹茶のおかわりをいただいてきますね。瀧川さんもいかがですか?」

「すみません、ありがとうございます。大丈夫です」


すみません、ということは、私がいたらお邪魔になるかなあと思って飲み物云々を言ったのはお見通しらしい。さすが瀧川さん。


言い置いて席を立とうとした瀧川さんを、外は寒いですからこちらで、と押しとどめる。


お座敷には私たちふたりしかいないし、引き戸を閉めたら声は聞こえなくなるし、私が避けておけばいいから、お座敷で済ませてしまった方が簡単だ。


なるべく邪魔にならないように、後はもう何もしないで席を離れよう。


失礼しますね、と電話に出た瀧川さんの目礼を受けて立ち上がりかけながら、私の背中越しに、いつも通り穏やかな声を聞いた。


「はい、瀧川です。……ああ、どうした?」


息を、のむ。
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