小倉ひとつ。
……びっくりした。


あなたとしか聞いたことがなかったから。小さいときからずっと、耳にするのは敬語ばかりだったから。


いつも丁寧な物腰なのは、やっぱり意識してるんだなあなんて。


あたりまえなのに。そうに、決まってるのに。


私は瀧川さんに恋をしている期間が長すぎて、好きすぎて、盲目な自覚はあった。


子ども扱いなのは知っていたし、そうなってほしくて頑張っていたから構わない。


……でも、子ども扱いや他人行儀の他に、店員扱い、というかお客さまと店員というか、そういうものをすっかり忘れていた。


いや、忘れていたんじゃなくて、そういう関係だって戒める割に、ちゃんと自覚していなかったんだ。意識していたくなかったんだ。


そんなことも分からなくなるほどだったなんて重症だ。


このご縁は、たまたま手繰り寄せたもので、私が頑張ったわけじゃない。


だから、これ以上の手繰り寄せ方が分からなかった。


もう何度も繰り返してきた、少しだけ特別な日常の見えない終わりに、寂しさとわがままが募る。


本当は、できることなら、ずっと好きでいたい。


ここまでって線引きはどこでしたらいいんだろう。正解の目印はどこにあるんだろう。


駄目だなあ。


そっと戒める。切なさが胸を突く。


駄目だなあ。


……だめ、なんだなあ。


きっと。もう少し待って、もし、もし私の諦めがついたら、終わりにできそうなら、この恋を終わりにした方がいいんだろう。
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