小倉ひとつ。
私がそう思いたかったのだ。言い訳が欲しかったのだ。
素敵な指先に憧れて。綺麗な手じゃないことを、結構、……かなり、気にしていて。
だから、何か言葉をかけられるなんて、ましてやそれがこんなに優しい響きだなんて、思いもしなかった。
「立花さん」
静かな呼び声。
「……はい」
「私は」
そらせない、美しい瞳。
「立花さんが、いつも隅々まで掃除していらっしゃるのを、知っています」
手は押しいただくように触れられたまま。
「朝もお昼も、休日も、歩きやすい敷石や磨かれた引き戸に、今日も素敵だな、またお伺いしたいなと思います」
景観を鑑みてか、敷石はちょうど、その上を歩くと、頭上の高い位置に桜や紅葉の枝が来るように配置されている。
だから、季節ごとの木々がとても美しく見える反面、落葉や落果の時期は足元がごたごたして歩きにくくなる。
朝に一度、箒で掃いたり集めたりするのが私のお仕事だ。季節の変わり目には特に、暇を見つけてはお掃除をするようにしていた。
引き戸は戸車やレールを中心に塵を集めて、取っ手を丁寧に磨く。
特にレールは土や木の葉がたまりやすいから、季節によっては、やっぱりこちらも一日に何度か確認するのが常だった。
素敵な指先に憧れて。綺麗な手じゃないことを、結構、……かなり、気にしていて。
だから、何か言葉をかけられるなんて、ましてやそれがこんなに優しい響きだなんて、思いもしなかった。
「立花さん」
静かな呼び声。
「……はい」
「私は」
そらせない、美しい瞳。
「立花さんが、いつも隅々まで掃除していらっしゃるのを、知っています」
手は押しいただくように触れられたまま。
「朝もお昼も、休日も、歩きやすい敷石や磨かれた引き戸に、今日も素敵だな、またお伺いしたいなと思います」
景観を鑑みてか、敷石はちょうど、その上を歩くと、頭上の高い位置に桜や紅葉の枝が来るように配置されている。
だから、季節ごとの木々がとても美しく見える反面、落葉や落果の時期は足元がごたごたして歩きにくくなる。
朝に一度、箒で掃いたり集めたりするのが私のお仕事だ。季節の変わり目には特に、暇を見つけてはお掃除をするようにしていた。
引き戸は戸車やレールを中心に塵を集めて、取っ手を丁寧に磨く。
特にレールは土や木の葉がたまりやすいから、季節によっては、やっぱりこちらも一日に何度か確認するのが常だった。