小倉ひとつ。
「お庭もお掃除されてますよね。葉が散っても、実が落ちても、雪が積もっても、気がつくといつでも素敵に整えてあるから、すごいなって思ってたんですよ」


それは。それはだって、お仕事だから。


庭師さんは季節の変わり目くらいにしか呼ばない。


落ちて潰れてしまった実を片付けるとか、凍ってしまう前に靴が埋まるほど厚く積もった雪をどかすとか、最低限の見目を整えるのは掃除をしながら私にもできる。


何より、私が幼い頃に手を引かれて憧れたのは、美しい稲やさんのお庭だった。

そんな稲やさんが好きだから。


……瀧川さんがいつも、お座敷の窓の向こうを、夢見るみたいに眺めるから。


「洗い物はあなたのお仕事だと以前伺いました。カウンターに立つときは特に、アルコール消毒をこまめにされているのを存じています」


試食のときの、小皿と菓子切りの組み合わせ。好みに合わせて説明すること。お見送りをすること。今みたいな、ホッカイロ。


気づいていると思っていなかった、気づいても言葉にされるとは想像していなかった私なりの努力を、まるで指折り数えるみたいにひとつひとつ例示して、瀧川さんが微笑む。


「立ち仕事で疲れていらっしゃるはずなのに、いつもにこやかにお話してくださるから、また来ようって思うんですよ」
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