小倉ひとつ。
「瀧川さん、おはようございます」


奥の席に座っていた瀧川さんに挨拶をする。


「おはようございます、立花さん」


静かな店内では、入り口の釣鐘の音がよく聞こえる。私が来たのに気づいていたのだろう瀧川さんは、手をとめて待ってくれていた。


こちらの顔合わせが済んだところで、失礼いたします、と一礼した店員さんに、ふたりでありがとうございますを言う。


「おはようございます。お待たせしてすみません」


荷物を足元のかごに置いて、お向かいに座る。


「いえ、私が早く着いてしまっただけですから」


楽しみで少し早く家を出てきてしまったんです、と瀧川さんがおどけてこちらを見つめながら言った。


光栄です、と私もおどけながら見つめたけれど、ふたりとも口が笑っている。


しばらくして堪え切れなくなって、ふたりで同時に噴き出した。


「手は冷えてませんか、大丈夫ですか」


外で待っててもらわないで、中で待ち合わせにしてよかった。今日は少し寒い。


「ありがとうございます、ホッカイロを持ってきていたので大丈夫です」


色を見せるように瀧川さんが差し出した手にそっと触れてみる。


……よかった、ちゃんとあたたかい。
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