小倉ひとつ。
コートの前をかき合わせながら歩いてくる間中、スマホの地図を確認するべく手袋を外した手が冷えに冷えて、かじかんだ。


自分の赤い指先を見ながら、瀧川さんは大丈夫かなあなんて密かに心配していたのだ。


ほっと一息吐く。


「お言葉に甘えさせていただいて、中でお待ちしていましたしね。ありがとうございます」

「いいえ。お体を冷やされなくてよかったです」


手を離したところで、店員さんが来たらしい。瀧川さんが私の後ろに顔を向けたので、私も少し振り向いた。


席から離れたところで一度、す、と一礼。こちらも目礼を返す。


「失礼いたします。こちら、メニューでございます」


それから近づいてきて、「ご注文がお決まりの際にまた伺います」とメニューを広げてくれた。


一度遠くから声をかける、礼をする、というのが徹底されているらしい。


失礼いたします、とまた離れてから頭を下げた店員さんに、ふたりで目礼を返した。
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