小倉ひとつ。
「実は、お抹茶を点てたいなあと思って、簡単にお道具持ってきたんです」


だから今日のバッグは大きいのである。


本当はお財布くらいがあれば問題ないのかもしれないけれど、一応そんな体たらくでは駄目だろうとか、でも手土産も変だろうとか考えた結果、こうなった。


お茶碗は陶器にして割れたらことなので、木製のもので簡略化した。ひのきの木目が美しい、漆拭きのもの。


お抹茶も買ったときの容器のままで、私の使いさし。

棗に似た筒状のものではあるので許されたい。主に祖母に。


焼き物を持って来て何かあったら、瀧川さんも気に病まれるだろうしね。


でもやっぱり怖いので、抹茶はこぼれてもいいように小さい袋に入れてある。

茶せんや茶杓もまとめて包んで、タオルとかハンカチとか、バッグには隙間に入る限りの布を緩衝材代わりに詰め込んで来た。


これで何かあったらまあ運がなかったということだ。全部私のものだから、そうしたら、また好きなものを買えばいい。


「よろしければ、キッチンをお借りしてもいいですか?」


バッグを指差すと、瀧川さんがぱっと目を輝かせた。


「はい!」


珍しい勢いの了承を鑑みるに、お邪魔ではなかったらしい。


ほう、と息を吐く。
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