小倉ひとつ。
焼き込みはしなくていいとのことで、早速作る運びになった。


稲やさんでは鉄のものを使うので、新しい機械を買ったときは、必ず油をひいて焼き込みをする。油をなじませないとパリッと焼けてくれないんだよね。


でもフッ素加工してあるなら焼き込みは駄目かな、加工剥がれちゃうよねと説明書を読んだところ、焼き込みは絶対にしないでくださいと当然のように大きく注意書きが書いてあったので、大人しく生地を作る。

赤字の太字だった。メーカーさんの強い意志を感じた。


鉄は重いからね。家庭用となるとやっぱり、ちょっと劣化が早くても、扱いやすい素材の製品が多いんだろう。


「分量は私の好みで大丈夫ですか? できるだけ稲やさんで教えていただいた通りに作ろうと思うんですが……」

「もちろんです。メモを取ってもよろしいですか」


真剣な顔つきでペンを握った瀧川さんに、どうぞどうぞ、と笑った。


瀧川さんは稲やさんのたい焼きがお好きだもんね。

パッケージに書いてあるレシピより、絶対稲やさんの作り方の方がいいと思って、瀧川さんに教えてもいいか、稲中さんに確認を取ってきていた。


稲中さんは「秘伝じゃないから構わないよ。美味しく作ってもらってね」と快く承諾してくださった。


一緒に作るのかという質問は曖昧に誤魔化してしまったけれど、美味しいたい焼きのためならば、でき得る限りの協力を惜しまないつもりである。
< 187 / 420 >

この作品をシェア

pagetop