小倉ひとつ。
「是非」


張り裂けそうな心音を聞く私とは裏腹に、瀧川さんはにこやかに頷いた。


稲やさんはお茶屋さんではないので、提供しているお茶の種類が少ない。販売もしていない。


だからお抹茶は専門店で買わないといけなくて、祖母に教えてもらって、これまた小さい頃から通っている、大好きなお店がある。


そこでは手広く茶器や茶道具、お菓子も扱っていて、その延長線で、店内で買ったものをお座敷でいただける仕組み。

どんなお味だろうと思ったものを一服ぶんお支払いすれば、店内で一服いただける。


お座敷をお試しで使う方と、お抹茶とお菓子を楽しみたくて使う方がいる。


それにかこつけて、固まりそうな舌を意識して明るく動かしたのだけれど。


……頑張って誘ってみてよかった。


心臓がうるさい。今はたい焼きを作る方に集中して、できたたい焼きを食べながら、後で時間を決められないか聞いてみよう。


だ、大丈夫大丈夫、多分社交辞令じゃない。


社交辞令だとしても——お招きいただいたお礼に、とかなんとか言って改めてお誘いするのは、変じゃない、はず。たぶん。
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