小倉ひとつ。
「もう一個も半分こしちゃってもいいですか?」

「はい」


今度は尻尾と頭を交換して、ふたつ合わせてちょうどひとつぶん。


味見がてら、お抹茶と一緒に食べることにした。


「よし、お抹茶点てますね! もう少しお待ちください」

「楽しみにしてます」


お茶は冷めると美味しくないので、たい焼きができてからキッチンの隅をお借りする。


畳はないから(マンションに一人暮らしなんだから当然である)、立ったまんまでちゃちゃーっと簡易版。


柄杓も使わない体たらく。ポットから注いでしまう。


おばあちゃんごめんね。だって荷物重かったの。


点てる間、瀧川さんは懐紙にのせたたい焼きをテーブルに運んでくれた。


おそらく普段自分が使っているんだろう席と、そのお向かいの席にたい焼きを置いて、こちらに戻ってくる。


拝見していてもよろしいですか、と言われたので、点てながらどうぞと頷いたら、目を輝かせてお礼を言われた。


……ふふ、点てるところを見るのってなんだか楽しいよね。

私も祖母が点てているところを見てお茶をやりたいと思った口なので、なんとなく分かる。


瀧川さんは、私がふたりぶん点て終わるまで、何も言わずにただにこにこ見ていた。


その美しい瞳が終始きらめいていて、お茶が好きなんだなと分かって嬉しい。


自分が好きなものを他の誰かにも好きでいてもらえるのは、幸せなことだ。その誰かが瀧川さんなら、なおさら。
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