小倉ひとつ。
「いえ、残念ながら誰も」


頭に失礼ですがってついていないのを聞く限り、おどけただけだろう。


ご一緒してくださいませんか、と返したいところを笑っておどけておいた。


お食事には行きたい。

お誘いしたら一緒に行ってくださらないかなって考えたことはあれど、こんな曖昧な流れでお食事に行きたいわけじゃないのだ。


できるだけ不自然にならないように話題を変える。


「瀧川さんはおみくじに何か面白いことって書いてありました?」

「それを超えられるほど面白いことはなかったですね……仕事が『その身をつつしみて仕事に励め』だったので、頑張ろうかなと思ったくらいで」


お忙しさを鑑みるに瀧川さんは今の時点でもうすごく頑張ってらっしゃると思うんだけれど、まだ余力があるのか。すごい。


「体調を崩しやすい時期ですから、どうぞご無理なさらないでくださいね。お仕事といえば、今日は仕事始めですか?」

「ええ、ありがとうございます。そうなんですよ。立花さんもですか?」

「いえ、私は昨日からです」


年始は結構忙しくなる。


生菓子ほどじゃないけれど、寒い季節だからか、年始のお茶会にたい焼きやおはぎを頼んでくださる方は多い。


稲やさんの近くのお店で初売りに並んだ方が、おやつがてら立ち寄ってくれることもある。

ほかほかのたい焼きを食べるとあったまるもんね。


そんなわけで、稲やさんの年始は早いのだ。


お店の準備も必然的に忙しなくなる。


お正月飾りは稲中さんの息子さんがつけ外しをしてくれた。
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