小倉ひとつ。
「瀧川さんはおせちは何かお召し上がりになりました?」

「ええ。実家に帰省しましたので、用意してくれていて」


そうだよね、一人暮らしだもんね。


私は初釜で祖母がばたばた忙しなかったので、例年のごとくおせちはお店のものを買った。


初釜のお土産の花びら餅美味しかったな。花びら餅といえば、お正月のお菓子の定番である。


「立花さんはお餅は召し上がりました? お雑煮とか」

「ええ。お雑煮と磯辺餅をいくつか」


あんことかきな粉とかごまとかも食べられるように用意してくれるんだけれど、いつも磯辺餅ばかり作ってしまう。


おや、と瀧川さんが瞬きをした。


「磯辺餅お好きなんですか?」

「ええ」

「俺も好きです。美味しいですよね、磯辺餅」


お揃いですね、と笑った顔があんまり優しくて、カウンターの下で手を握りしめる。


ああ、だから。このひとは。

俺も、とか。お揃いですね、とか。


好きなものをますます好きになるのは、瀧川さんのおかげと決まっている。


「私、お醤油って好きで。お花見のときのお団子もいつもみたらしを買ってしまうんです」

「ああ、それもお揃いですね」

「光栄です」

「こちらこそ」


くすくす笑い合っていると、立花さん、と呼ばれた。
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