小倉ひとつ。
お昼休み、近くのコンビニに走って、瀧川さんの手元にいつも見かける抹茶ラテを買った。


お願いして直前まで冷蔵庫に入れさせてもらう。


瀧川さんが十三時にたい焼きを受け取りにいらしたときに、裏に取りに行った。


「瀧川さん、こちら、よろしければ。お荷物になってしまうんですが……」


今日のぶんは朝の時点でお持ちだったから、明日とか明後日とかに飲んでもらえたら嬉しい。


コンビニの袋を訝しそうに受け取った瀧川さんが、失礼しますと控えめに中を覗いて、勢いよく顔を上げた。


「とんでもないです、ありがとうございます……!」

「よく召し上がってらっしゃるのはこちらですよね?」

「ええ。覚えていてくださって嬉しいです。ありがとうございます」


いえ、と首を振る。


「お菓子、少しいただきました。和三盆って好きです、ありがとうございます。美味しかったです」


いただいたお菓子は和三盆だった。


桃と桜と梅の花。お正月に似合いの干菓子は、抹茶によく合う。お昼、自分用に一服点てさせていただいて、大事に大事にふたつつまんだ。


干菓子なら急がなくてもいい。

もうすぐ来る約束の日まで、ひとつふたつって、指折り数えるみたいに毎日少しずつお菓子を食べたかった。


「よかったです。俺も明日いただきますね」


微笑む瀧川さんに、こっそり唇を噛む。


瀧川さんはきっと、注文のついでに何度も話したり見かけたりするから、私が瀧川さんが好きなメーカーを覚えたと思っている。偶然だって。


違うんです。私、たまたま覚えてたんじゃないんです。


……あなたが、好きだから。


言えない秘密を笑顔の裏に隠して、瀧川さんの背中を見送った。
< 250 / 420 >

この作品をシェア

pagetop