小倉ひとつ。

14.お隣のしあわせ

王道の、パン、チーズ、ハム、ベシャメルソースを使ったクロック・ムッシュ。たまに目玉焼きがのったクロック・マダムを頼む。


クロック・ムッシュとカフェ・オ・レ ボウルを朝食にするのがもっぱらのお決まりだった。


たっぷりのベシャメルソース、溢れそうにのせられたこんがりチーズ、サクサクのパン。ナイフで切ってアツアツを頬張る。


あれから目標のパングラタンとシチューをいただいて、やっぱりとても美味しかったので、足しげく通うようになった。


少し早い朝ご飯に寄ってからのんびり歩いて稲やさんに向かうのが、最近の新しい習慣になりつつある。


ここのカフェ・オ・レ ボウルはいい。

目の前でたっぷり注がれるカフェ・オ・レはもちろん美味しいし、ボウルもおしゃれだし、何より、お店全体がゆったりしているのがいい。


慌ただしく食べる人も、騒がしくおしゃべりする人もいない。


小綺麗な身なりの人々が、上品に微笑みながら密やかに話し、音質よく控えめに流れるしとやかな音楽を聴いている。


いらっしゃいませ、と向こうで店員さんの声が聞こえた。どなたか新しいお客さんがいらしたらしい。


「一名様でよろしいでしょうか?」

「はい。……ああ、すみません、知り合いがいるのでそちらにお願いしてもよろしいですか?」

「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」


ご案内します、の前に上品に訂正した声は、聞き慣れた響きをしていた。
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