小倉ひとつ。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「とんでもないです。今日のお昼はお時間大丈夫ですか?」

「はい、十四時まで余裕がありますが」


ということは、大体一時間くらいはこちらにいても大丈夫ということだ。


「よかった。じゃあ、少しだけお付き合いいただけますか」

「はい。楽しみにしております」


それではまた十三時に、といつものように言い置いて、広い背中が去っていくのを見送った。


急いでお掃除をし、お仕事に区切りをつけて、頃合いを見計らって稲中さんに声をかける。


瀧川さんにお抹茶を点てさせてほしいと申し出たところ、二つ返事で了承していただけたので、お座敷の座席をひとつ予約した。

もちろんお代は私が出す。


そわそわしながら十二時半にはお仕事を順調に終わらせて、瀧川さんをのんびり待った。


ぴったり十三時に、からりと軽く引き戸が開く。


「こんにちは、いらっしゃいませ」

「こんにちは」

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


予約しておいた、窓の向こうが綺麗に見渡せる席にご案内。


「……立花さん」


退出しようとした私を、瀧川さんが静かに呼びとめた。


「はい」


あれ。顔を上げたものの、なぜか瀧川さんと目が合わない。


どうしたんだろう。

目が合わないし何もおっしゃらないし、あれ、今私呼びとめられた、よね? まさかの聞き間違い?


いやでも、多分呼びとめられたはず。うん、たぶん。
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