小倉ひとつ。
翌日、朝一番に稲中さんにお昼時間を調整していただけないかご相談したところ、十三時から一時間、瀧川さんのお昼に合わせたお座敷の使用と時間変更の許可があっさり下りた。


ふたりでたい焼きを食べ、週末にはアクアパッツァを、その翌週にはシチューを食べながら、「カレーのたい焼きが美味しいなら、シチューのたい焼きも美味しいと思うんです」と瀧川さんに力説すると、「是非作りましょう」と即答された。


「今からこの残りで作るのはさすがに難しいと思いますが、来週の土曜日はあいていらっしゃいますか。ああでも、二週続けてシチューだと味気ないでしょうか」

「いえ、そんな、全然。シチュー大好きですし。それに……」


言うかどうか随分迷ったけれど、そっと深呼吸して、小さくつけ足す。


頑張れ、私。


「瀧川さんとご一緒できるなら、なんでも美味しいと思います」

「……またそういう優しいことをおっしゃる」


困ったような口調で笑う瀧川さんの眼差しの方が、よほど優しくて甘やかだ。

くそう、かっこいい。


瀧川さんは最近、ふたりきりで会うときだけ、よくこういう目をする。


眼差しを向けられているのがまるで私じゃないんじゃないかって思うほど、ひどく甘くて柔らかな、勘違いしたくなる目。


とっさにおどけたふりをして、速くなる心音を押し込める。


「ご一緒してくださらないんですか?」

「いえ。喜んで」


是非ご一緒させてください、と微笑んだ瀧川さんに、是非、と私も笑い返した。
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