小倉ひとつ。
「今はお仕事中ですからね」


残念な私の説明を瀧川さんが引き継ぐ。


「是非後でお写真を拝見させてください」

「記念写真を撮る予定ですので、そちらでよろしければ」


成人式のものならお写真がある。実は袴を合わせて卒業式の前撮りもしている。

だから本当なら、時間があればすぐにでもお見せできるのだけれど、集合写真の方が紛れられる……と思う。


いや、だって、恥ずかしいじゃないですか。うん。


小さく写ったら、ちょっとくらい写真うつりが気になっても分かりにくいかなあ、なんて私のずるい企みを知らない瀧川さんは、にこやかに頷いた。


「楽しみにしています。でも、お着物ですと、その後ご友人とお祝いに行けないのでは?」

「お写真を撮っていただいたらワンピースに着替えるつもりです。謝恩会までには着崩れしてしまうと思いますから」


簡単には直せるけれど、あまりひどいと自分では直せない。


髪型はどちらでもおかしくないようにするつもり。


一応、卒業生の席の後ろに、少しだけ、毎年全然埋まらない保護者席がある。

もう大人だから卒業式を見守りはしないそうだけれど、お決まりの、卒業式の立て看板を入れた写真を両親が撮りに来てくれるので、そのついでに謝恩会用のものを受けとって、卒業式用のものは渡してしまう予定になっている。

私ももう見守られなくてもさすがに大丈夫なので、あっさりした対応が嬉しい。


せっかくだから、三人での記念撮影も会場の方にお願いしたいな。当日のカメラマンさんに、手があいてる方がいらっしゃるといいんだけれど。


「朝が早いので、帰宅したらもう疲れ果てて寝てしまうんじゃないかなって今から心配していて」


でもフルメイクだし、絶対髪をガチガチに固めてあるし、普段よりお風呂が長引くに決まっている。

どんなに眠くてもそのまま寝るわけにはいかない。


翌日は絶対のんびりするって決めてるんです、と力んでみせたら、お疲れさまです、とくすくす笑われた。
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