小倉ひとつ。
卒業式が終わって、予想通り倒れるように眠った翌日のお昼頃、電話がかかってきた。


えっ瀧川さん!?


表示されるとは思っていなかった文字列に、スマホを両手で握りしめて出る。


「お、お電話ありがとうございます、立花です」


完全に稲やさんでの受付みたいな受け答えになった。

稲やさんでは、お電話ありがとうございます、稲やの立花でございます、が基本である。


『突然ご連絡差し上げてすみません、瀧川です。こんにちは、立花さん』

「こ、こんにちは」


挨拶で一呼吸置いてくれたのは、電話越しにあんまり慌てている私を慮ってだろう。


電話の向こうで笑われている気がする。

でも、瀧川さんは余計なことは言わなかった。笑い声も含まれなかった。


しばらくお時間よろしいでしょうか、と静かに聞かれたので、はい、と頷く。


瀧川さんとのお電話によろしくない時間などない。

お仕事と約束事以外は全てを放り出して受ける所存である。


ただいまお時間よろしいでしょうか、じゃないことが、無性に嬉しい。


たくさんお話できるってことだもんね。


ああ、この間のんびりするって言ったから、お電話お昼にしてくださったのかな。

もちろん今日はあいているけれど、なんだろう。


そんな疑問は、すぐに解決した。
< 317 / 420 >

この作品をシェア

pagetop