小倉ひとつ。
「おはよう」

「おはよう、かおりちゃん」


多分待っていてくださったんだと思う。引き戸を開けてすぐのところで、稲中さんご夫婦がこちらを振り向いた。


おはようございますをもう一度言いつつ、後ろ手に扉を閉める。


「今日からよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。今日の流れは家内が説明するから、まずはいつも通り荷物を置いて準備をして、お座敷に来てね」

「はい」


早足で控え室に荷物を置いて着替えをして、忘れものがないか確認して、お座敷に向かう。


「失礼します、立花です。今よろしいでしょうか」

「はあい、どうぞ」


柔らかな奥さんの声にほっとしつつ引き戸を開けると、お花を生けているところだった。


見慣れた小手毬とアイリス。私の視線を追ってお花に視線を向けた奥さんが、ふわりと笑った。


「気が早いけれど、お誕生日おめでとう、かおりちゃん。かおりちゃんと一緒にお仕事できるなんて嬉しいわ。これからよろしくね」

「とんでもないです、ありがとうございます。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、こちらこそ、今後ともご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願いいたします」


がばりと頭を下げると、あらあら、いいのに、と笑って、それでね、と小さな紙を渡された。


「これからの一日の流れは、こんな感じでお願いしたいなあと思っているのだけれど」

「はい」


ざっと流し見た限り、今までとほとんど変わりはない。


下の方に、新しくお願いしたいこと、と書いてあって、お花やお茶の仕入れとあった。
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