小倉ひとつ。
ああ、駄目だ。耐えられない。


「ごめん待って、妙に緊張してきた……変な酔い方しそう……」


恥ずかしさとか気まずさとかときめきとかに視線を下げると、分かった、と優しい即答。


「無理しないで。お願いした一杯だけで様子見よう。無理そうだったら申し訳ないけど残していいから」


えええ、とは言わないでくれるところが好きだった。

代わりに俺が飲もうか、とまでは言わないでくれるところが好きだった。


「ありがとう、一杯なら大丈夫そう。ごめんなさい……また今度お誘いしてもいい?」

「もちろん。お誘いが増えるのは逆に嬉しいから、全然気にしないで。また一緒に夜ご飯食べよう。そのときもし飲みたくなったら教えてね」

「うん。ありがとう」

「いいえ」


入れてくれるフォローは私が何を気にするかを分かりきったフォローで、すごいなあ、と思いながらのんびりグラスを傾ける。

少しずつならなんとかなったので、一杯だけいただいて、その日は終わり。


その後も、要さんのお家に行ったり、おすすめの映画を見たり、有名な切り絵作家の方の展示を見たりして、ときおりお酒を飲みながら、毎週末のようにお出かけをした。
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