小倉ひとつ。
玄関の鍵が開く音がした。


「ただいま」

「おかえりなさい!」


後ろ手に鍵を閉める要さんにぱたぱた駆け寄る。

お気に入りのスリッパは、心なしかいつもより軽い音がする。


「お仕事お疲れさま。今日は早かったね」

「かおりもお疲れさま。今日は順調な仕事が多かったんだ。明日も多分早く終わると思う」

「それはよかった! ご飯できてるよ。食べる?」


今日は和食の気分だったから、簡単な和食。

私は五穀ご飯が好き。要さんの好きなきんぴらごぼうもある。


「ありがとう、食べる。待っててくれたの?」

「うん、早く帰るって連絡あったから」

「そっか、ありがとう。……それでかおり、今日は何かいいことあった?」

「えっ分かる!?」


そんなにるんるんな顔をしているだろうか。


思わず顔を手で触ってみたけれど、だめだ、自分だと全然分からない。目と口と鼻があるのは分かった。


「分かる。嬉しそうだから」

「そうなの、ちょっと今とっても嬉しくて」

「先に荷物置いてくるから、ご飯食べながらゆっくり話聞かせて」

「うん。飲み物入れて待ってるね。和食だからほうじ茶でいい?」

「うん、ありがとう。すぐ行く」

「はーい」


要さんはすたすた着替えに行き、私はぱたぱたキッチンに向かい、無事ほうじ茶を美味しく淹れられた頃、要さんが顔を出した。
< 373 / 420 >

この作品をシェア

pagetop