小倉ひとつ。
お互いに指輪を付け合って、鈍い冷たさに顔を見合わせながら、ゆるりと両手を重ねる。


うるさい心音の間を縫うように、重なった指輪が低く硬質な音を立てた。


普段あまりアクセサリーをつけないことも相まって、金属が重なる音は耳珍しい。


「今日はこのままご飯行くでしょう?」

「うん。せっかくだから」


一応サイズは合わせてもらったんだけれど、お仕事の邪魔になってしまううえ、早々に傷んでしまうので、普段は指輪を手にはつけられない。


首から提げるための細いチェーンもお願いしてあった。


「ネックレスにしたら、俺につけさせてね」

「うん。帰ってきたらお願いする」


ご飯を食べ、記念に手も含めたご飯の写真を撮りまくり、寝る前に名残惜しく指輪にチェーンをつけてネックレスにして、翌朝要さんにつけてもらってからお仕事に行った。


服の下にしまっておくと、周りからは見えない。仮にチェーンが少しずれて襟からのぞいたとしても、細身だからあんまり目立たない。


稲中さんたちからもお客さんからも、特に大きな反応はされなかった。
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