小倉ひとつ。
要さんのお家へのご挨拶では、要さんのご家族に「稲やさんの店員さん」としてばっちり認識されていて倒れ伏すかと思った。


気を使ってみなさん稲やさんを避けてくださっているらしい。というか要さんが頼んだらしい。


「だって、『こんにちは、はじめまして。わたくし瀧川要の母です。いつも息子がお世話になっております。それでは小倉を三つお願いいたします』って店頭でいきなり言われたら超絶怖いでしょう」

って帰宅してから言われたけれど、情けないことに全くもってその通りです。


ありがとう要さん。想像したら怖すぎだった。


随分と前だけれど、要さんがまだご家族でいらしていたときにほんの数回だけ、稲やさんで要さんのご家族となんとなくすれ違ったことがある。

そこから話を広げてくださったのでお話しやすかった。


要さんのお母さんがお茶を嗜んでらっしゃる方で、同じ流派だったのも嬉しい。


思いがけず話が盛り上がって、今度、要さんと私と要さんのお母さんで、お茶をご一緒する約束をした。


大好きな老舗の和菓子屋さんに行けるとあって、今からとっても楽しみにしている。


今の時期だと何があるかな。練り切り可愛いだろうなあ。


そんなこんなでお互い挨拶を済ませたのだけれど、どちらの家ももう大人だからとそんなに深く干渉しないようにしてくれているので、今のところ、自由な二人暮らしをしている。


お会いする度、共通の話題として稲やさんのこと、派生して私のお仕事のことは聞かれるけれど、プライベートなことは踏み込まないようにしてくださっている。

ちょうどいい距離感がありがたい。


要さんとなら大丈夫、が、要さんのご家族の方なら大丈夫、に確信を持って変わるのは、思いの外早かった。
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