小倉ひとつ。
「申し訳ありません、失礼いたしました」


私たちの関係を分かっている、ちゃんとわきまえていると示したくて、言葉遣いはできる限り丁寧にする。


瀧川さんがそれ以上何かを言う前に、がばりと頭を下げて急いで謝ると、まさに口を開きかけた瀧川さんは、変なものを飲み込んだような顔をした。


喉がつかえたみたいに音高く鳴って、結ばれた口が、はく、と一度動く。


なんだろう、どうしたんですか。その驚いた顔はなんですか瀧川さん。

私、馬鹿なこと言っちゃうような馬鹿なやつですけど、謝るくらいできますよ。


若干目を見開いて無言のまま瀧川さんが固まって動かないので、とりあえず聞いてみる。


「あの、いかがなさいました?」


いえ、と困り顔で言われたけれど、気になるので教えてくださいな。


じいい、と見つめる私に根負けしてか、瀧川さんは実に言いにくそうに口を開け閉めした後、への字にした唇を薄く開いた。


「その……笑わないで、くださいね」

「はい」

「ああいえ、笑ってやってください。自意識過剰だと」

「あ、はい」


……その。
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