小倉ひとつ。
ゆっくり食べると一時間なんてすぐだ。


自由時間を持てるように少し余裕を持って切り上げてくれたから、なおさらあっという間だった。


後で野菜とか他のものも食べてくださいね、と言った私に、はい、と頷いて。


「あれから気をつけてるんですよ」


そんなことを言って笑った。


瀧川さんは丁寧にお礼を言って、裏の稲中さんご夫婦と息子さんご夫婦に挨拶をして、また来ます、と帰っていった。


出口までお見送りをして、お辞儀をして、ふわふわした足取りで小道を戻る。


……泣きそうだった。


嬉しくて、悔しくて、悲しくて、胸が痛くて。


楽しかった。


でも、話をする度に、好きが積もって苦しかった。


……早く、言ってしまえばよかったのかな。


それこそまだ子どものうちに、高校生のうちに、好きですって言ってしまえば、子どもだからって言い訳が自分にできただろう。


もしかしたら、諦めもついたかもしれない。


でも、そんなことを思っても。


やっぱりどのみち、諦めなんてつかなかっただろうなあ、とすぐに首を振るくらいには、瀧川さんのことがずっと好きだ。
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