小倉ひとつ。
3.胡麻のたい焼き
からりと引き戸を開ける音がした。
慌てて手を休めて立ち上がり、きちんとした姿勢でお迎えすると、暖簾を押し上げて現れたのは瀧川さん。
今日もいつも通り一番乗りだ。
「おはようございます。いらっしゃいませ」
「おはようございます」
すぐにぴったり扉を閉めて、瀧川さんが少し寒そうに肩をすくめた。
最近めっきり寒さが増していて、紅葉はすでに褪せ始め、まだ手袋やマフラーまではいらないけれど、コートは必需品だ。
足元も手先も急に冷えやすくなった。
瀧川さんも厚手のコートを羽織っているけれど、首元はあいている。
吐息がほんのり白ばんでいて、重ねた大きな両手が少し赤かった。
「今朝は随分冷えましたね」
「肌寒くなってきましたよね。ホッカイロのご用意がございますが、よろしければ、おひとつご準備いたしましょうか」
寒くなると、稲やでは毎年、来店してくれた人にホッカイロを渡すサービスをする。
お寒い中ご来店いただきましてありがとうございます、とホッカイロをお渡しするのだけれど、こんなふうに急に冷え込んだ日には特に毎回評判がいい。
「もうそんな時期なんですね。ありがとうございます、大丈夫です」
後でお茶を買いますから、と瀧川さんは手慣れた返事を寄越した。
慌てて手を休めて立ち上がり、きちんとした姿勢でお迎えすると、暖簾を押し上げて現れたのは瀧川さん。
今日もいつも通り一番乗りだ。
「おはようございます。いらっしゃいませ」
「おはようございます」
すぐにぴったり扉を閉めて、瀧川さんが少し寒そうに肩をすくめた。
最近めっきり寒さが増していて、紅葉はすでに褪せ始め、まだ手袋やマフラーまではいらないけれど、コートは必需品だ。
足元も手先も急に冷えやすくなった。
瀧川さんも厚手のコートを羽織っているけれど、首元はあいている。
吐息がほんのり白ばんでいて、重ねた大きな両手が少し赤かった。
「今朝は随分冷えましたね」
「肌寒くなってきましたよね。ホッカイロのご用意がございますが、よろしければ、おひとつご準備いたしましょうか」
寒くなると、稲やでは毎年、来店してくれた人にホッカイロを渡すサービスをする。
お寒い中ご来店いただきましてありがとうございます、とホッカイロをお渡しするのだけれど、こんなふうに急に冷え込んだ日には特に毎回評判がいい。
「もうそんな時期なんですね。ありがとうございます、大丈夫です」
後でお茶を買いますから、と瀧川さんは手慣れた返事を寄越した。