小倉ひとつ。
瀧川さんに嫌われたくない。


それははっきりしている。


できる限り避けられなくて嫌われないためには、きっとこのままでいた方がいいということもはっきりしている。


このまま店員とお客さんの関係でいるには、私が恋心を隠すのが最善だということも、はっきりしている。


私の望みは明確で、望みを叶えるための過程と手段と取るべき対応も明確だ。


何も言わないのが最良。それは自明なのだ。


……でもときどき、好きですと言ってしまいたくなる。


好きですって言われたら、きっと瀧川さんは困るんだろうな。

そうしてだんだん稲やさんを訪れなくなるんだろう。


だから言わない。何もしない。


……中途半端な堂々巡りだった。


何度も考えて、何度も迷って、何度も何度も出してきた同じ結論に、何度も帰着する。


初恋は今なお鮮やかだ。


瀧川さんが好きだと気づいたあの日から、私の初恋は、一度も色褪せずに鮮やかさを増している。


好きだって気持ちを手放せた日はない。


——擦りきれた戒めを思い出さなかった日は、一度もなかった。
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