小倉ひとつ。
選んで来た答えを後悔しないなんて無理な話で、いつでもほんの少し諦めがつかない。


好きばかりが募っていく。


積もり続ける恋に、これからもきっと変わらないんだろうという諦念と、これでいいのかが分からない後悔と、そのくせ他に選択肢のない焦りが引っかかる。


それでも、胸を突くのは決まって瀧川さんの微笑みなのだ。


カウンターの陰でぎゅっと強く手を握る。


……やめよう。今は仕事中なんだからしっかりしなきゃ。


大丈夫大丈夫、と心中唱えて強引に頭を切り替えてから、瀧川さんの様子をうかがった。


カウンター前に立った瀧川さんの目は、何度か商品棚の端から端までを往復している。


いつも小倉に決め打ちしているけれど、今日は小倉じゃないんだろうか。


いや、でも小倉に目がとまったような気がする。多分。


うんうん迷っていたのがとまったので、一旦声をかけてみた。


「お決まりですか?」

「いえ、もう少し考えさせてください」


すみません、と眉を下げた瀧川さんに慌てて謝る。


「いえいえ、大変失礼いたしました……!」


わああ、失敗した……!

全然とまってなかったらしい。すみません。


「どうぞごゆっくりご覧くださいませ」


はい、と陳列棚にもう一度目をやって、ゆっくり一通り見渡した瀧川さんが、今度こそ、迷いながら一旦こちらを向き直した。
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