小倉ひとつ。
棚の上に掲示してあるPOPを目線で示される。


POPには、「胡麻の日」と大きく書いてあった。


「こちらのPOP、新しくされましたよね?」


稲やでは、五、十五、二十五と、毎月五がつく日を胡麻の日に設定していて、季節のたい焼きの代わりに胡麻のたい焼きが並ぶ。


季節のたい焼きはレギュラーの小倉たい焼きと同価で、胡麻も通常は同価だけれど、胡麻の日の胡麻たい焼きだけは、二割引きとお求め安い価格になる。


今日はちょうど十五日。


胡麻の日は必ず商品棚にPOPを大きく掲げるけれど、月に三回とそれほど頻度は高くない。


でも、問いかけには確信が含まれている。


覚えにくいだろうPOPの違いに気づいてくれたのは、瀧川さんらしい細やかさだった。


「はい、ちょうど今朝新しくしまして」


すごい。よく気づいたなあ、瀧川さん。


いつもすごく細かいところまで気づいて声をかけてくれるから、その度にすごいなあと思う。


よく気がつくというか、聡いというか、細やかというか。


「もしかして、あなたがお作りに?」


続けられた言葉に嬉しくなった。


他の諸々のPOPや値札と揃えたデザインだって伝わったらしい。


本当に瀧川さんはすごいなあ、とまた思いながら、にっこり頷く。


「はい。私が作成しております」

「やっぱり。字がお綺麗だから、そうかなと思いました」


素敵ですね、とPOPをためつすがめつする瀧川さんの、そのあまりに優しい微笑みに、思わず喉が詰まった。


……これは。これはちょっと、あんまりにも甘やかすぎる。
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