小倉ひとつ。
「なんだか少し新鮮です」


お向かいに座っているのも新鮮で、いつもお仕事では真正面でお話するのに、少しくすぐったかった。


「新鮮ですよね。今日は一日お休みなんですか?」

「はい。瀧川さんもですか?」

「はい。でも、稲やさんのたい焼きをおやつにいただきたくなって」

「私もおやつに」


お揃いですね、と今度こそ微笑んだ。


瀧川さんは、お休みの日はちゃんとたい焼きをおやつにしている。


お仕事でも、お昼ご飯にするのはやめておいた方がいいんじゃないかなあなんてちょっと思うけれど、好みだからね。


瀧川さんがたい焼きが食べたいなら、健康を害さない範囲で、お好きなように食べたらいいと思う。


……お会いできるのは、嬉しいし。


少しでもお話したくて、少しずつ少しずつ、ゆっくり食べる。


お薄を一口傾けた私に、瀧川さんがふいに言った。


「今日は下ろしてらっしゃるんですね」

「え?」


思わず反応が遅れる。


「髪を下ろしてらっしゃるところを久しぶりに拝見したなあと思って。素敵ですね」


ふわりと心が浮く。


ああ、瀧川さんだなあ、と当たり前のことを思った。


こういうさりげなさが、細やかさが、瀧川さんを瀧川さんたらしめている。


「いつも結んでいますもんね。ありがとうございます」


せっかくだからって手が込んでるふうの簡単ハーフアップにしてきてよかった。


出かける前の私、ありがとう……!
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