小倉ひとつ。
ご飯を食べるときは髪をまとめた方がいい。


でも、いつも三角巾で見えないから、休日くらいは引っ詰めなくてもいいかなって。


ハーフアップなら、髪は食べるときに邪魔にならないように肩の後ろに払っておけばいいし、たい焼きは手で持つものだから下ろしていてもそんなに邪魔にはならないし、ちょっとくらい、気分転換に雰囲気を変えたかった。


本当にありがとう、あのときの私。君のおかげだよ。


名残惜しさに食べる速さがゆっくりになって、ときどき話をしながらお薄をゆっくり傾けて、それでも食べ終わってしまって。

まだ足掻こうとして——他の常連さんから瀧川さんが話しかけられたのを横目に、そっとお先に失礼した。


瀧川さんは会話がしやすい方だ。


返事をしやすいようにか、褒めてくれるときもさりげない。

ありがとうございますって言ったら次の話題を振ってくれるから、あんまり構えなくてもいい。


的確な言葉選びと、涼やかな手慣れた口調。


何も言わないままで気づいてくれることがたくさんある。


席も、荷物も、ハーフアップも、たい焼きの袋を二重にしたときも。
< 76 / 420 >

この作品をシェア

pagetop