小倉ひとつ。
うんうん悩んでいると、「お好きなものでも」と助け船が出された。


「ラスクが好きです。でも東京っぽいラスクは分かりません……」


すみません、としょげた私に、いえ、と律儀にワンクッション置いて、瀧川さんが優しく微笑んだ。


「ありがとうございます、何か探してみます。ラスクって美味しいですよね」

「美味しいですよねえ。サクサクしてるのが好きで」


サクサク、のところで瀧川さんが破顔して、穏やかな微笑みが少し崩れた。


控えめに肩が震えている。口元に手を持っていったのは、笑いを堪えているらしい。


瀧川さんは笑うときも上品だ。


「立花さんあれですよね、サクサクしているものがお好きですよね。ラスクとかたい焼きとか」

「そうなんですよ。サクサク好きですね」


分かりやすすぎる好みだったらしい。


美味しいですもんね、と瀧川さんが楽しげに言うので、美味しいですよね、と私も笑い返した。


笑いながら、そっかあ出張かあ、と思った途端。


ひとつ多くたい焼きを店頭に並べた、あのじりじりした寂しさがふいに蘇って——喉が詰まるような息苦しさが、ひたひた喉元を迫り上がった。


……出張かあ。


出張、かあ……。
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