笑え、オリオン座
なんだか急に恐怖心が芽生え、部屋に戻る。
木の軋む音をたてながら扉をしめた。
倒れている人たちに目をやる。
みんな寝ているようで、誰も目を覚ましてはいなかった。
「…!」
遠くから足音が近づいてくる。
ゆっくりと、けれど確実に。
足音からして一人のようだ。
私は出来るだけ足音をたてないように他の人たちのところへ戻り、寝そべった。
心臓の音が聞こえる、とても速く大きい音で、自分のものだと分かった。
じっとりと汗が額に浮かぶ。
足音はすぐそこまで来ているようだった。
喉をならし、扉を凝視する。
扉が軋みながら開き、ゆっくりと人が入ってきた。
その人の姿を見て、私は目を見開いた。
漆黒の髪、白い肌、そしてなにより、漆黒の瞳…。
薄暗い部屋の中で、よく見えないはずなのにそれがわかった。
鼓動がもっと速くなる。
彼は、部屋が暗いせいか、私が起きていることに気づいていないように見える。
こちらへ向かって歩いてきたため、私はギュッと目を瞑る。
少し間があって、ひんやりとしたなにかがわたしの頬に触れた。
驚いて目を開けると、電車の彼の顔が目の前にあった。
頬に当たったのは彼の指で、彼は私の顔をじっと見つめていた。
何十分とも何時間とも感じた、彼と見つめあった時間は本当はたったの数秒だったのかもしれない。
彼の瞳に吸い込まれるようで、瞬きをするのも忘れ彼の瞳を見つめていた。