恋する人、溺愛の予感
無意識のうちに先生の横顔に目がいっていたとき。
ー♪〜
突然、着信音が車内に響く。
ふいに先生が私の方を向いて目と目がバッチリ合ってしまった。
やばっ、見てたこと気付かれたかな。
そんな私を見て、先生は一瞬だけ何か驚いたような、とぼけたような表情になる。
鳴ったのは先生のスマホで、それに気がついて冷静になったのか、画面をスライドしてスマホを耳に当てる先生。
「あ〜、あー。」
急患かと思ってびっくりしたけど、それはないみたい。
適当に相槌うってる様子を見ると、あまり重要な用件ではなさそう。
それならそれで運転中だからって電話を切ればいいのに。危ないし。
お節介だろうから言わないけれど。
「あ、もしもし、海?」
「え?な、何?」
どこから声が聞こえてるのか一瞬分からなくて反応が鈍かった。
どうやら先生がスピーカーにしたみたい。
「そういうことで、先生と楽しんでね!」
「は?え、どういうこと?」
「じゃあまたね〜‼︎」
「ちょっ、ちょっと、桜、まって。」
「ーーーーー。」
私の言葉を遮るようにあえなく切れた電話。
「先生、どういう事なんですか?」
「ん〜、そういう事?」
苦笑いしながらこめかみを掻く彼。
「はあ〜〜。」
状況を察し、ため息を吐くしかない。
「ドタキャンですか。」
桜の野郎…。
「ああ、夫妻でばっくれだ。
賢太郎(けんたろう)から電話がかかってきた。
奥さんの方が風邪らしいけど…。」
私を先生と2人っきりにしやがって…!
というか、桜、絶対元気だったじゃん!
咳ひとつしてなかったよ?
どうせ新婚でイチャイチャしたいんでしょっ!
何がダブルデートだ!
桜が言い出したくせに。
そもそも、1組は夫婦、もう1組は付き合ってもいない仕事場の同僚って、そんなのデートじゃないじゃん。
先生と職場以外で2人っきりになんてなった事ないのに。
なんか桜に騙された気分。
私の事を気に入ってくれてる数少ない友人なはずよね?
内心プンスカしてる私。
そんな私の耳に入ってきたのは先生の鼻歌。
「なんでドタキャンされたのに、先生はそんなに嬉しそうなんですか!」
「え、そりゃあ、やっと海ちゃんと2人きりになれるんだもん。」
「え。」
「どうせだから、予約してたところいこうよ。
キャンセル料払うのもったいないし。」
そんなニッコニコな笑顔で言われたら…。
「…はい。」
微妙な顔で頷くことしかできない。