【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
わたしたちの近い距離の会話と、あでやかな彼の笑みに、遠巻きに見ている女の子たちの色めく視線。
もちろん彼女たちは、モテる十色のそばにいるわたしの存在をよく思っているわけじゃない。だけど、ちゃんと常識はある。
この学校は、さっきも言った通り大半が累の関係者。
そのトップの人間が好いている女に何かすれば、自分の身がどうなるのかなんて、考えなくてもわかること。
おかげで何もされないのは、春に好かれているという事実の、不幸中の幸いか。
……好かれていることすら不幸だと言うのなら、もう何も言うことはないけれど。
「莉胡。……今度の週末、一緒に出掛けるか?」
「……見え透いたふたりきりのお誘いには乗りません」
「……ちょっとは思ってなくても引っかかれよ」
誘ってくれたのが春じゃなければ、案外簡単にうなずくはず。
だけどわたしを好いてくれている春に誘われるのは、ある意味自殺行為だ。
「……累のみんなとなら、いいわよ。
ただし実はみんな来ない、みたいなオチはナシね?」
「……お前、その場合絶対千瀬連れてくるだろ。
俺がそうしたくても出来ねえよ」
「ふふ。ガード固くてごめんなさい」
過保護な幼なじみが口うるさく言ってくるものだから、わたしもこうやって自然とガードが固くなる。
だけど千瀬に黙って男の子とふたりで出かけたりしたら、絶対あとで文句言われるんだもの。千瀬は冷たく怒るから怖いし、できれば怒らせたくない。
「千咲(ちさき)あたりは、夏休みに全員で出かけたいって言いだすだろ。
……もうすぐ夏休みだからな」
「みんなで行こうね。……みんなで」
「わざとらしく強調すんじゃねえよ」