【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
ぽつりと。
自分がこぼした声で車内が急に静かになったことに気づいて顔を上げれば、アルトがふっと破顔するように笑みを見せる。
「お前……
思った以上に普通の男だねえ」
「俺のこと一体なんだと思ってたわけ」
「恋愛に対してもプライド高そうだなって」
失礼だね相変わらず。
……まあ、そう言われる気持ちもわからなくはない。あれほど何年も気持ちを隠してきた俺を知っていれば、片思いを知られたくないプライドの高い男みたいだし。
「んで?結局オメーいつから好きなんだよ」
にやにやにやにや。
俺を陥落させたかと思えば、今度は恋愛ネタをひたすらに引き出そうとするアルトとトモ。ここで素直に言うのもなんとなく嫌だから、「さあ?」とあえて濁した。
「さあ?じゃねーよ、さあ?じゃ」
「そろそろつくんでしょ。
……由真にも莉胡にも、迷惑かけるつもりはないから」
これ以上、質問に答えるつもりはない。
それを示すようにシートに深く身体を沈めて、目を閉じた。海はもうそこに見えていて、そろそろつくのは出発前に聞いた会話でなんとなくわかる。
──『だから、莉胡の幼なじみなんて嫌だったんだよ
そう告げた俺に、莉胡があのとき向けた傷ついた顔を思い出す。
今回だけじゃない。あの日から、何度も何度も思い出しては苦しくなった。大事な彼女のことを、自分で傷つけてしまったことに。
だけどそれが、莉胡を好きだからだって言ったら、きっと莉胡は困った顔をして「ごめん」って笑うんだろう。
それがわかるほどに、俺たちは距離が近すぎた。
とにかく。
車を降りれば、莉胡に一番に謝ろう。