【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
俺の好きな、笑み。
昔から変わらず俺に向けてくれる、莉胡がしあわせな証拠。
変わってないなとしばらくぶりに見たそれに思いをふけっていたら、莉胡が「あっ」とあわてたように俺とまた距離を詰める。
なに?と見下ろせばどうやら、俺のシャツが涙でぬれたことにあわてていたようで。
「夏だしすぐ乾くから気にしなくていいって」
「でも、」
「どうせいまから泳ぐんだし、着替える時に脱ぐじゃん」
「千瀬く〜ん?
仲直りできたんだったらお前はさっさとこっち手伝いやがれ」
俺らが乗ってきた車のバックドアを開けて荷物をおろしていたアルトが、テントの入った袋の紐をぷらぷらさせる。
莉胡の頭をぽんぽんと撫でてからそっちに行けば、アルトがじいっと目を細めた。
「春がなんとも言えない顔してたかんな」
「……見なかったことにしといて」
車をおりたのは、海がすぐそこに望めるペンションの前。
8人で泊まれるペンションだから、値段を割ればホテルよりも安くなる。なんとかキツキツに予定を合わせて1泊2日になったけど、ペンションはもちろん貸切。
ホテルで変に騒ぐよりも迷惑にもならないと、羽泉がここの情報を出してくれた。
部屋も寝室はどうやら2人ずつになっているようで、莉胡と由真の身の安全もそこそこ。……まあ、誤っても手を出す人間は俺らの中にいないけど。
「ん。手続きはもう済ませてきたからね。
明日迎えに来るから、みんな楽しんで」
気づけばいないと思っていた西の先代ふたり。
どうやらチェックインの手続きを済ませてくれていたらしく、全員がそろってお礼を言う。
そして車が2台去ったかと思うと、誰からともなくペンションの中へ。
莉胡はこういうの好きだろうな、と思っていればすでに女子ふたりの姿は玄関になく、どうやらあっという間にふたりで奥まで行ってしまったらしい。